夫婦間、カップル間のセックスレスのお悩みをお聞きしていると、
「彼からこんな酷いことを言われた」
「夫がなぜこんな行動をするのか理解できない」
「どうしてする気もないのに触ってくるの?」
「セックスレスなのにどうして『子どもができたら…』っていう話をしてくるの?」
「大丈夫だよって言われたけど、何が?私は全く大丈夫じゃない」
「話し合っても、翌日から何もなかったような顔をしているのが理解できない」
彼・夫のあんな言動、こんな言動が多く伝わってきます。そして、長年そういうお声を聞き続けると、「似たような言葉」「似たような行動」が、集まってきます。
悩んでいる皆さんにとっては、どれもきっと「自分だったらそういうふうには考えない、そういう行動はしないのに」と感じるものばかりなのだと思います。
今回は、「言動の背後には、その人の『性の価値観』がある」というお話をしていきます。
そして、セックスレスの悩みに陥ったとき、相手がもしこういう『性の価値観』を持っていたら、お互いに歩み寄るのが難しい傾向にあるということも合わせて書いていきます。
理解できない相手の行動の背後には、その人の「性の価値観」がある。
人がする行動の背景には、「そうしたいと思ったから」「そうするべきだと思った」という気持ちがあるわけですが、その気持ちをよくみていくと、その人がもっている価値観が浮かび上がってくることがあります。
例えば、道路にゴミをポイ捨てする。条例等でも禁止されることの多い行動ですが、この行動をする人はゼロにはなりません。
どうしてゴミを道路に捨てるの?と捨てた本人に尋ねれば、「え、なんとなく」「別にいいじゃない」という答えが返ってくるかもしれません。「捨てたかったから捨てただけ」という人もいるかもしれませんね。
例えばですが、こういう言葉の背景には、「自分が困らなければいい」「周りの人のことはあまり考えない」という価値観があるのかもしれないなと推測できます。
もし本当に、この人の中に「自分が困らなければいい」「周りの人の事はあまり考えない」という価値観があるとすると、ゴミのポイ捨てだけではなく、人間関係でも、仕事でも、それをもとにした行動をしている可能性が出てきます。
さて、そう考えていくと、セックスレスの状況で、
「彼からこんな酷いことを言われた」
「夫がなぜこんな行動をするのか理解できない」
こう思うとき。彼・夫の言動にも、その背後には何らかの価値観が存在します。
性についてどう考えているか、相手との性のことについて問題が起こったときどうしようと考えているかが含まれるので、「性の価値観」と呼んでいきます。
相手の性の価値観は、長くお付き合いを続けたい相手であればあるほど、しっかり確認してほしいと思います。
ライフイベントや年齢とともに変わっていくことも十分考えられます。うまくいっているときは、特に話さなくても大丈夫だろうと考えてしまいがちですが、今の状態がずっと続くとは限りません。
セックスレスの悩みが出てきて、初めて相手と自分の性の価値観を知ることも多いです。話し合い①では、まずそれを確認してねとお伝えしています。
それを聞いていく中で、相手からこういうセリフや考え方が出てきたら、歩み寄りが難しくなりやすいと思ったほうがいいものを以下にまとめました。
どちらの考えがいい・悪いということではなく、ただ「価値観が違う」のです。
逆に、もしもこういう価値観なのに、彼・夫が歩み寄る姿勢を少しでも見せてくれるのだとしたら、それはすごいことです。
その場合は、うまくいく可能性を自ら摘んでしまわないように、コミュニケーションを重ねていく必要が出てきます。
セックスレスで歩み寄りが難しくなりやすい価値観。
セックスレスで、したくない側が次のような価値観を持っている場合、歩み寄るのは難しくなります。ざっとあげてみます。
- セックスとは、自分がしたいときにするものだ
- セックスは、個人個人の問題である
- 夫婦は、だんだんセックスしなくなっていくものだ
- 家族の雰囲気に「性」を持ち込みたくない
- セックスは子どもを作るためにするものである
- セックスは性欲を満たすものでしかない
- もともとセックスに対していいイメージがない、あまり好きではない
細かいものをあげればきりがありませんが、いったんこのあたりまでが、よく出てきます。この中のいくつかをみていきたいと思います。
セックスとは自分がしたいときにするものだ。/セックスは 二人で育てていくものだ。
セックスレスのお悩みについて、彼・夫がしたくない側だというとき、相談のやりとりで一番多く出てくるのは実はこちらではないかと思っています。
「セックスとは、自分がしたいときにするものだ」
で、自分がしたくないからしない、なぜしなければいけないのか?というように続きます。
他にこんな言葉もあります。
「してほしいって言われると、したくなくなる」
「お願いされてするものじゃないでしょ」
「そう言うのって口に出して言うものじゃないんじゃない?」
「強制されているような気がして嫌だ」
どれも、こちらから勇気を出して誘ったときに言われたら落ち込んでしまう言葉ばかりですね。これらの背後にある価値観は…と考えていくと、
自分がしたいからする
自分の中に欲が生まれたからする
自分がその気になっているからする
こういう感覚があるのかなと思います。特に、性行為ではどうしても男性のほうが能動的にならないといけない場面が多いので、致し方ないのかなとも思います。
これは逆に言うと、
自分がしたくないから、しない
自分の中に特に欲はないし、しない
自分はその気になっていないから、しない
となります。ここで話が終わってしまうような感じがあります。
ここでまたひとつポイントがあって、その人の性の価値観の中に「相手が不在」だと、歩み寄りは難しくなります。
自分はしたくないから、しない。以上。
自分がしたくないから、しない。でも、彼女・妻はしたそうだ。うーん、どうしよう…というのがないのです。
どうしたらお互いが不満を抱えずにすむかな?という視点がない。個人で完結している…と言えばいいでしょうか。
自分はこっちで完結しているから、あなたの問題はあなたで解決してねという雰囲気すら感じられます。「セックスは、性のことは個人個人の問題である」という価値観もありそうです。
逆に、彼、夫とレスで悩む人の価値観は、
セックスは二人で作っていくもの。二人で関わっていくもの。
関わる過程を楽しいと感じ、相談したり話し合ったりもできる。
となっていることが多いです。「二人で」という感覚があるのがポイントです。なので、「個人で」「ひとりで」(別に二人である必要はない)というニュアンスを、相手の言動から感じ取ると、余計に傷ついてしまうのです。
夫婦になったらセックスはしなくなるものだ。/恋人の延長線上に夫婦を置いている。
結婚した後の家族、家庭と性の関係をどうとらえているかというのも、とても重要です。
恋愛していた頃と、結婚してからを、全く違うものと捉えている人も決して少なくありません。
「夫婦になったらセックスはしなくなるものだ」という性の価値観を持っている人からはこんな言葉が出てきます。
「夫婦になったら少なくなるものでしょ」
「いずれしなくなっていくんだし」
「家族としてみているからそういうふうには見れない」
「家族に見えてできない」
「家庭にそういうのを持ち込まないで」
妊娠・出産・育児期間の前後からそういう考えになっていく人もいれば、結婚(入籍)という線を境に、パタリとそういう行為がなくなることもあります。
これは、夫婦を恋人の延長線上においている価値観の人たちからすると、かなり驚いてしまう現象です。
しかも、入籍という線を境に変わる人たちは、自分がそういう価値観を持っていると気づいていないことも多いようです。
「今は、恋愛中だからセックスを普通にしてるけど、結婚したらもう別のステージになるから、こうじゃなくなるからね、よろしく!」
なんてことを事前に言う人はいないでしょう。本人も結婚してみて初めて自分の持っている価値観を知ったりします。本当に「蓋を開けてみないとわからない」のです。
対して、彼・夫とレスで悩む人の価値観は、
恋人の延長線上に、夫婦を置いている。
家族というよりまずは男女の夫婦関係を大事にしたいと考えている。
「家族に見えてできない」という感覚がよくわからない。
性のことが夫婦間でうまくいっていると、結果として家族もうまくいく。
こういったことが多いようです。
セックスは欲の発散であり快楽のためだ。/セックスは、快楽だけでなく安心感・愛情を分かち合うものだ。
セックスを「何を感じるために」するものと捉えているかも重要です。
例えば、「セックスは自分がしたいからするもの」「セックスは個人個人の問題」という価値観を持っている人の中には、
セックスは、性欲の発散であり快楽のためにするもの
という考えが多くを占めているのではないでしょうか。そういう方からはこんな言葉が聞かれるかもしれません。
「そんなにセックスのことばかり考えてるの?」
「セックスがなくても愛情はちゃんとある」
「セックスと愛情が結び付くっていうのがよくわからない」
「セックスは低俗なものだよね」
「性欲を自分に向けられると辛い、欲の発散に自分を使われているように感じる」
そもそも「欲」をどのように捉えているかも、このあたりに表れやすいように思います。
一方、「セックスは二人で作っていくもの」という価値観を持っている人は、欲の発散や快楽のためももちろんあるけれど、それ以上に、相手とのつながりを感じるため、安心したい、女として見られていることを感じたい、これらをひっくるめて愛されていると感じる…など、様々な感情を結び付けて捉える傾向があります。
他方からみると、「え、それも結び付けているの?」というようなもの(自分の自信や、認められている感じ…など)もあるかもしれません。
自分はこれを結び付けているけれど、相手はそうではないようだ…。これがわかると、また寂しい思いが出てきます。
これも、どちらがいい・悪いではなく、セックスというものに何を結び付けているかがお互いに違う、ということになります。
この人にはどんな性の価値観があるのだろう?
他にも、「セックスは子どもを作るためにするもの」(=子どもができたらもうしなくてもいい)「そもそもそんなに好きじゃない」(=恋愛中は相手をつなぎとめるために仕方なくする)といった価値観を持っている人もいます。
これまでに述べてきたような価値観がまざりあって、その人の性の価値観を作っていると言えるでしょう。まざりあう配分は個人個人で違います。
例えば、相談される中でこんなケースがあります。
『結婚して1年ほどたちました。恋愛時代は普通にセックスしていたので、そのまま結婚。話し合いは特にしていません。だって、結婚後もこれが続くと思っていたからです。結婚後、だんだん回数が減っていって、さみしいと言ったら、夫からは「一緒に住んだらそんなになくてもよくなった」「夫婦ってそういうもんじゃない?」「仕事で疲れた」などと返ってきて、向き合ってくれる様子はなく、辛いです。』
この場合、夫はどういう『性の価値観』を持っているのでしょうか。
・一緒に住んだらそんなになくてもよくなり、特にこの人から向き合う様子はない
→「自分がしたいからするもの」「セックスは個人個人の問題」「恋愛時代と結婚後とでは意識が変わった」
・夫婦ってそういうもんじゃない?
→「夫婦になったらセックスは減るものだ」
こういう価値観が言動の背後にあるのではないかと推測できます。
最も大事な「二人の問題として向き合えるか」というところは、今のところは、向き合ってくれる様子はないということですが、この方の場合は、話し合いはそんなにしてこなかったとのことなので、お互いの性の価値観を確認し、歩み寄る意思があるかどうかを確認するための①の話し合いを、機会をみてしていくのがいいのではと思われます。
相手と自分の『性の価値観』が違ったとき。
相手と自分の価値観が、違う。それが明らかになったときに、「ちょっとくらいこちらに合わせてくれたっていいのになぁ」「自分の価値観を少しくらい変えてくれたっていいのになぁ」と思うことがあると思います。
しかし、『性の価値観』を変えるというのは、実はとても難しいことです。
今これを読んでいる皆さんも、「セックスは二人で作るものではなく、個人個人の問題という価値観に変えてください」「夫婦になったからもうなくていいよねっていう価値観に変えてください」と言われたら、かなり抵抗を感じるはずです。
性の価値観の違いは、どちらがいい・悪いではなく、「ただ、違う」なのだということ。
それを「変える」のは、そもそもハードルが高いこと。
そのことを踏まえたうえで、相手と自分のできること、できないことは何なのか。
「これは個人の問題ではなく、二人の問題」という視点を持てるかどうか。
持てないのなら、落としどころはどうするのか。
歩み寄るために工夫できるところは残っていないか。
それを順番に話していく必要があります。
こういうコミュニケーションをしていくには、工夫がいろいろ必要です。
自分から話し合いをぶち壊さないための心のスタンスは、こちらの『負けるが花』で書いています。(Kindle版のみ)
セックスレスと話し合いのテーマについては、こちらの書籍でまとめました。
この記事の先はどうしたらいいの?についても書いています。
「セックスレスを一方的に我慢しない『したがらない夫』との話し合い方」ぜひお読みください。
まとめ
セックスレスで悩む側にとって、パートナーの言動は、「どうしてそう言えるのかわからない」「なぜこういう考えになってしまうんだろう?」というものが多いですね。
その多くの言動は、これまで書いてきた『性の価値観』が背後にあり、そこからきているのではないでしょうか。
相手の『性の価値観』が、だいたいどんな配分でどんなことを思っているのか、それを「知る」というのはとても大切です。
そして、相手との違いを通して、自分の『性の価値観』もハッキリとしてきますし、「やっぱりこれは嫌だな」と、譲れない部分も分かってくると思います。
価値観がお互いどれくらい違うのか。二人の現状を把握したいときに参考にしていただければと思います。
セックスレスのことについては、こちらの著書『誰にも言えない夫婦の悩み相談室』でも書いています。
「私の場合はどうしたらいい?」を知りたい方は、個別相談をご利用ください。